月刊ほんコラム 私の論点:図書館をとおして

コラム

 

記録すること

 

 記憶はどの位保つことができるだろうか。数分で忘れることもあれば、数十年忘れないこともある。一方で記録という言葉があるが、どう違うのか辞典で調べてみると記憶は「過去に体験したことや学んだことを心にとめおくこと」記録は「将来のために物事を書き記していくこと」とある。記憶は年月の中で変化してしまうこともあるので、人間は外部記憶装置として記録を生み出したと言われている。記憶を記録として後生まで保管し、記録がまた記憶を呼び戻すという仕組みである。今、世界ではデジタルアーカイブを用いた記録の仕組みが作られ始めている。この3月に公開された国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)はその代表的なものだ。同館HPでは「震災に関する音声・動画、写真、ウェブ情報等のデジタルデータや、関連する文献情報を一元的に検索・活用できるポータルサイト」と説明している。デジタルデータでも適切な管理が無ければ、長期に保存することは難しいが、様々な情報を一元に収集し、検索できるようにするためには今のところこれが最良の方法であろう。さて、記録には、もう一つ大事な点がある。以前、私の勤める図書館に韓国のテレビクルーが突然取材に来たことがある。「この図書館に舞踊家石井漠の弟子である崔承喜の公演チケットがあるはずだ」というのだ。崔承喜は韓国では伝説の舞踊家と言われおり、その特集番組を作っているようであった。確かに当館にはそのチケットがあり、その後、所蔵している理由を取材された。この様子はその後、韓国と日本で放映されたが、私もチケット1枚のことでまさか韓国と日本で全国放送されるとは思わなかった。このことは記録をその時点での価値で判断してはいけないというその後の戒めになった。同じように(ひなぎく)ではできるだけ多くの地域の普通の記録を集めなければならない。それは簡単ではないだろう。ぜひ皆さんにも協力をお願いしたい。

 

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