月刊ほんコラム 図書館司書のつぶやき
連載第六回
学芸員は「がん」発言の根底にあるもの

つぶやき

 

県全体の図書館振興を考える

 

✐市区町村立図書館と都道府県立図書館は二重行政ではない

 

 市区町村立図書館と比べて、都道府県立図書館の役割は理解されにくい。ときどき、これを市区町村と都道府県の「二重行政」と言う人がいるが、これは明らかな間違いである。間違いというのは、表面だけ見ていて、内容を見ていないからである。

 東京都立図書館を除いて、多くの道府県立図書館が直接来館者への貸出しを行っている。とくにここが二重行政と言われる点だが、こういうことを言う人は、実際に図書館をあまり利用していないか、本もあまり読まない人であると思う。実際に利用していれば、市区町村の図書館と都道府県の図書館とで、置いてある図書や雑誌の内容と量が大きく違うことに気づくだろう。年間に日本で、図書は約8万点出版される。これは、コミックは除いた数字である。だいたい単価が2500円とすると、1点1冊全部買うと2億かかるということになる。もちろん、通常、全部までは買う必要はないだろう。しかし、市区町村でかなりの額を購入できるのは政令指定都市くらいだし、そもそも市区町村は人口にもよるが複本が必要な本も多い。だから、どうがんばっても市区町村の図書館で用意できる図書や雑誌というものには限度がある。それで、当然のことだが、都道府県立図書館では市区町村では買わないような本を買っていくことになる。そして、これを市区町村の図書館から求めがあった時には協力貸出しするわけだ。こんなにわかりやすい分担はない。「二重行政」などという根拠はまったくない(ときどき、これは国がすればいいという超暴論を吐く人がいる。しかし、これは人口が1億を超えるような国でやるのは現実的ではない)。

 ただし、都道府県立図書館の予算まで貧弱だと、協力貸出しはあまりあてにされなくなる。「二重行政」などと言われる要素があるとしたら、この場合のみである。

 また、政令指定都市があるようなところだと、日本語の本はかなり多く持っており、道府県立図書館の役割はかすんでしまうかもしれない。しかし、政令指定都市があるようなところは、単に日本語の「図書」だけあればよいという地域ではないだろう。多くの雑誌、それも専門的な論文が掲載される雑誌が必要とされるし、外国語の図書・雑誌・新聞が多く必要である。これは、在住の外国人や様々な文化的背景を持った人に必要ということもあるが、昨今は英語が読める人も増えており、英語の文献もたくさん必要なのである。小学校からの英語教育も始まっているから、これからはなおさらであろう。こういうものは、進んで県立図書館が収集・提供していかなければならない。各種のデータベースなどはなおさらである。

 もちろん、調査研究支援という点では、都道府県立図書館の役割が非常に大きい。実際に、詳しく調べようと思ったら、都道府県立図書館に行かないと調べはつかない。もちろん、これは身近な市区町村立図書館ではレファレンスはいらないなどという暴論を言うつもりではない。しかし、資料そのものがなかったら、調べようがないものは当然、多いのだ。なにしろ、都道府県立図書館には保存センターという機能もある。都道府県立図書館が資料だらけ、書庫だらけなのは当たり前なのだ。なお言うと、都道府県立図書館は、将来、書庫が拡張できるようになっていなければならない。

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✐県の図書館振興策が必要

 しかし、都道府県立図書館が真剣に取り組まなければならないものとして、もっと言わなければならないこととして、都道府県全体の図書館振興が挙げられる。もちろん、市区町村で相当程度、図書館整備が進んでいるところもあるが、未設置の町村はいまだに多いし、設置されていてもかなり貧弱な図書館が目立つ県もある。それに、そもそも、いわゆる「図書館空白地帯」というのは結構ある。自動車の普及した時代だから、自動車で図書館に行けばよいではないかと言っても、それも30分以上もかかるようなところでは、なかなか図書館には行かないのではないだろうか。そういうところは、まだあるのだ。

 ところが、こういうところは、残念ながら、いつまでたっても図書館は立たない。未設置町村をなくすということは当面の目標にできるかもしれないが、空白地帯をなくすというのは、ほとんど無理に近いかもしれない。だからと言って、県立図書館が直接、移動図書館を回すというのは、基本的には古臭いやり方で、限界があるやり方だ。

 そもそも、日本の国には、具体的な図書館振興策と呼べるものはない。補助金も図書館ストレートのものはない。もし、公立図書館の設置促進をするとすれば、「都道府県がするしかない」のである。都道府県立図書館の協力貸出しとか、その他の市町村支援のメニューだけでは、いつまでたっても図書館は充実されない。逆に言うと、こういうところで、各都道府県の「見識」というものには差がつく。国民が図書館サービスをどう考えるかにもよるが、移住を考える際のポイントのひとつになって行くだろう(基本的に、「移住」というものが都市部から地方へというものならば)。

 市町村の図書館の建設費や資料費に一定の補助を行う県としての図書館振興策(振興計画)を策定しない限りは、どうにもならないだろう。その条件に司書の採用・配置をつけてもいい。もともと、館長の有資格要件が国庫補助金の条件からはずされ、やがてその補助金自体も廃止されたのは、地方分権の中で、そういうことは都道府県がやるべきだという話があったからだ。いったい、都道府県でこういうことをやっているところがどれだけあるのだろうか?

 そんな田舎に図書館の投資をしたってしょうがないなどと言う人もいるかもしれない。しかし、私は反論したい。今まで、田舎にいろいろな投資をして、それが有効に機能したものなど、どれほどあるのだろうか? そもそも日本のように長らく、首都や大都市集中型の国家運営を行っていたところが、田舎に投資といっても、分配的なものしかできないのだ。また、いわゆる工場誘致みたいなことも、前時代の方策である。

 日本は完全な工業立国の国であったから、それが立ち行かなくなったということがわかってから失敗の連続である。金融立国的なものを目指したときもあったのかもしれない。それは、たぶん失敗している。昨今は、「観光立国」かもしれない。しかし、観光産業がそんなに大きなシェアになりようがないことは、よく知られている。