月刊ほんコラム 図書館司書のつぶやき
連載第六回
学芸員は「がん」発言の根底にあるもの

つぶやき

 ところで、観光も滞在型とか、もっと知的な要素の強いもの(たとえば、きちんとその土地の歴史を学ぶとか)になっていけば、これは立派な知識集約型産業である。そうなると、図書館の出番ではないか。ガイドがみんな図書館で学習すれば、それは評判も高くなるだろう。

 世界中で、誰がどう考えても伸びていく産業なんていうのは、実はわかりきっているのである。ICT(*1)とそれと連動するとくに知識集約型のサービス産業、生命科学や環境科学をベースにした産業、そういったものである。これらは、高度な知識、それから知識の総合が要求される。ところが、これは都市でなければならないかというと、そうでもない。ひょっとしたら、田舎の新たな時代が来るかもしれない。

 そういう「新しい田舎」に「新しい図書館」は積極的にコミットメントしていくべきだ。これからは、知的田園、情報化された田舎の時代なのかもしれない。

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 さて、そのように田舎暮らしをひたすら限界集落まっしぐらとは違ったとらえ方をするなら、すでにそういう生活を試みている人たちが出てきていることをお知らせしたい。何も田舎は常に古臭くなければならないなどということはないのである。

 田舎は年寄りが多いから、本を読む人は一部だとか、タブレットなど使えないなどとつまらないことばかり言っていないで、いまどき、わざわざ田舎に住んでいる中堅層から若い人をイメージして行政やサービスを展開して行った方が未来につながるのではないか。図書館はその中に確実に位置を占めることができるはずである。

 何を言いたいのかというと、産業政策、ICT政策と一緒に、県内の図書館政策、それはとりもなおさず田舎の図書館政策を考えていったらどうかということである。もう「暮らし方」「生き方」自体が変わってくる時代なのである。

 そこまで認識をあらたにすれば、田舎の図書館に投資するのは決して無駄ではない。単なる衰退地域ではないからだ。人口減少社会が、田舎の消滅を意味するものではない(今までと同じく、一次産業とその従事者を対象とする三次産業しかないと考えるなら、消滅するだろう)。

 さて、そう考えてくると、そういう田舎からどんどん新しいサービスを行った方がよいかもしれない。使っている人が少ないなどとつまらないことを気にしなければよいのだ(将来のために)。県立図書館が電子書籍サービスを行えば、市町村立図書館が過度の負担をする必要がない。というよりも、電子書籍サービスは県全体で考えた方がいいだろう。そうすると、リアルな図書館の設置とともに、電子書籍サービスによる県全体の図書館サービスというものも考えた方がいい。すると、これはかなり具体的な事業になってくるので、単に教育委員会事務局だけで考えられることではない。県立図書館に人材も予算も配置して、先に進められる事業は先に進めるというのが現実的かつ未来的なんじゃないだろうか。

✐思い込みを捨てて、ストーリーを立ててみよう

 地方の図書館では、小説と料理の本くらいしか借りられないとか、そういう思い込みはとっとと捨てよう。小説と料理の本くらいしかないから、本が借りられないのだ。はっきり言うが、小説なんていうものほど、都市的なものはない。また、田舎の人は料理の本なんか読まなくても、もともと料理が上手な人がいっぱいいる。

 本当は、田舎の人ほど、広い世界を知る本を欲しているのだ。田舎の人が半径5キロの話ばかりしているのは、それしかネタがないからで、ネタを提供すればいいだけなのだ。本来、田舎ほど読書環境のいいところはない。むしろ、図書館や読書は田舎にフィットしているのだ。

 これから、県で図書館振興策を立てるなら、月並みに他県の参考資料をいじくるのはやめて、まったくオリジナルに、図書館や読書への思い込みから離れた活用のストーリーを立てればよい。ここでは、むしろ、ストーリー・メーカーが大活躍である。

 今までの田舎の生活では、いろいろ言われるように衰退し、もはや、消滅するだけである。だけど、田舎の新しい生活というのは考えられるし、すでに存在し始めているのだ。まず、いろいろな意味での「古臭さ」から脱却することが、かえって、田舎に人を呼び込む。田舎はもはや古臭くないのだ。そもそも古臭い人しか生活できなかったから、古臭い人しか住まなくなる。しかし、これからは、そんな限定は外れる。田舎でもICTを活用できるし、図書館等の知的基盤を整備すれば、知識集約型の産業だって起こせるのだ。実は、こういう話は世界史上なかったわけではない。戦争、侵略等で、故郷を追われた知識人達が集まったところは、もともと田舎であっても大変発達したという例はいくつもある。これは技術者の場合も当てはまる。そういう魅力を持った土地がこれから発展するし、そういうところに図書館は必須であるし、それを実現するには、まともな県の図書館振興策を作らないと無理だろう。(山重壮一)

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ICT(*1)
Information and Communication Technologyの略。情報通信技術。