月刊ほんインタビュー
電子図書館特集
潮来市立図書館館長 船見康之氏
第3回

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✐オーディンブックとKIOSK端末の利活用へ期待

―コンテンツに関してですが、子育てですとか、ご老人向けのサービスとしてこれからどんなコンテンツを増やしていきたいと思っていらっしゃいますか?

船見:オーディオブックですね。オーディオブックを結構入れたいと思っています。なぜかというと、ご年配な方以外にも最近ニーズが少しずつ増えてきたのが介護関係者の方なんです。介護のデイサービスセンターの従業員とかが先日電子図書館のID・パスワードを作りに来たんですよ。うちのシステムを利用している、介護を必要としている利用者さん向けにiPadを3台買ったんだと。自由に読書を楽しんでもらおうと思ったんだけどなかなか手が不自由だからできない。でもずっと付き添って操作するのもうちは難しいからオーディオブックみたいなのがないかな、みたいなことを言われたんです。そのときになるほどねと思って調べたところ、数はあんまりないんですよ。ですからコンテンツの充実というところもいろんな出版社を増やしてほしいといろんな図書館は口では言えると思いますが、なにをどう増やしてほしいとピンポイントでちゃんと伝えてあげないと取次する会社さんは困っちゃうでしょうね。

―アメリカでは、OverDrive社の提供するコンテンツの中に、オーディオブックが相当量入っています。なぜアメリカでオーディオブックが広まったのかという議論でよく聞く話は、アメリカは車社会だから、車を運転しながらオーディオブックを聞くのだろうと。では日本においてオーディオブックは本当に広まっていくのかというと、日本は車社会とは言い切れないところがありますし、移動時間もアメリカに比べ圧倒的に短いです。このような環境の中で、館長がおっしゃったような本当にオーディオブックを必要とされる方々がどこにいるのかということを電子書籍プラットフォーマーにちゃんと伝えなければいけない。もっと言うと、それは版元さんにも伝えなければいけない、というお考えですね。

船見:そうですね。あともうひとつ、アメリカのほうですでに実例があるんですが、KIOSK端末(*1)ですね。例えば学校や病院とか隣町のでかいショッピングセンターの中に設置するといいかなと考えています。たぶん「古いなあ」って思う人がいるでしょうね~(笑)。KIOSK端末日本では結構昔の話になりますからね。

―アメリカではOverDrive社がやっているKIOSK端末のサービスがありますね。一方で中国にもKIOSK端末がたくさんあります。なぜかというと利用者の環境差が大きいからです。そんな中で、例えば北京大学に行きますと大きなKIOSK端末が何台も置いてあって、全国の新聞を読めちゃったりします。普通に新聞を広げて読もうとすれば場所が限られてしまいますし、たくさんの新聞を読むことができない。記事の検索もできない。ですから中国ではKIOSK端末が非常に有効に活用されています。おそらく日本においてもKIOSK端末も非常に重要な存在としてこれから認識されていくということですね。

船見:そうですね。あとは希望としては近所の商店街ですとか、商工会の方々に頼んでそこにKIOSK端末を置いて、お店の割引券とかダウンロードできるようにするとか。それもひとつのビジネス支援ですね。あとはスマホの高速充電器を付けておくだけでも十分いけるんじゃないかと思います。またこれから2020年東京オリンピックに向けて観光に来た外国人客など短期滞在の方々にID・パスワードを開放する仕組みとか、そんなサービスをどんどん構築できたらいいかなと考えています。

 

✐本を介するサービスだけが図書館サービスではない

―ビジネス支援に関しまして閉館時間を遅らせるなど費用対効果の問題がいろいろ取りざたされている中で電子図書館で「ビジネスマン向け」という棚を設けていらっしゃいますね。これからどんな書籍が必要だと思われますか?

船見:書籍以外にデータベースだったり雑誌だったり新聞だったり、そういった情報をコンテンツとして提供できないかなと考えています。

―ビジネス支援図書館推進協議会(BL)(*2)で推薦図書をどうしようかという議論が長年続けられています。確かにレファレンス的なものは必要ですが、レファレンスブック(*3)が年に何回、どのぐらいの利用者が使っているかの統計がない。その上値段も高い。日経テレコンに代表されるような新聞データベースは図書館に来なければいけないし、これもまた高い。このような状況の中で本当に日々日常ビジネスをやっている方々が必要としている情報はどこにあるのか。やはりタイムリーに発行されているマガジンかもしれないということになりますね。となるとマガジンをどういうふうにして図書館がビジネスマンに提供できるか? 公共図書館は住民の納税で成り立っています。納税者をどれだけ味方につけられるか、ということになりますね。

船見:そうですね。結局本に代表されるだけが図書館のサービスではありません。ありとあらゆる情報源を「電子図書館」というプラットフォームを通して提供してもいいと思いますね。

 あと、潮来市立図書館は、電子図書館以外にも少し変わったところがありまして…12月18日はスターウォーズの新作映画の公開日なんですが、図書館では12月になにをやっているかというと、普通の図書館の場合12月だったら大体クリスマス関連の書籍などで特集を組みますが、うちはスターウォーズ特集をやっています(笑)。これらの本の中には書店では絶対手に入らない貴重なものもあります。また、ダース・ベイダーの実物大のコスチュームやライトセーバーのレプリカなども展示しています。まあこれは僕の私物ですけど(笑)。ダース・ベイダーはちゃんと呼吸音も出ますしピカピカ光ります。ライトセーバーもちゃんとLEDライトになっていて、下から光って上から消えるような仕組みになっています。しかも音響効果付きです。今日さっそく感極まって「近くで写真撮らせてくれ」という利用者が現れたとスタッフから連絡がありました(笑)。ちょっとマニアックでしたかね…。

 

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館内で展示されるダース・ベイダーのコスチューム(左)とスターウォーズ特集本棚(右)

 また、鹿島アントラーズのコーナーも設けてありまして、これは現在の事例としても最初期にサッカーチーム専用のコーナーを作った図書館だったと思います。始めたきっかけは川崎市の舟田さんや鳥取県の小林さんといった図書館海援隊サッカー部(*4)の皆の影響が強いですね。鹿島アントラーズに許可をとってファンクラブ雑誌を創刊号から全部揃えています。ホームページでもチームの最新情報をクローリングしたり、オンシーズンのときに試合の結果を表示したりします。クラブからアントラーズのロゴは全部使っていいと許諾も得ています。一部のサポーターさんから神扱いされちゃったりします(笑)。今はクラブから寄贈された巨大サイズの大型本(ビジュアルブック)をどうやって設置し、図書館の利用者にめくらそうかと頭を悩まされています(笑)。どうせなら、デジタル化したいなと思いますが、難しいですね。やっぱり歴史のあるサッカーチームですので出ている資料の量が半端なく多いです。だからやるからにはもう徹底的にやろうと思って、昔のファンクラブ雑誌をオークションで落札したり…これはもう完全に自腹です(笑)。あとユニフォームも飾ろうかと思ってクラブハウスのショップに買いに行ったのですが、たまたまいた担当者に「ユニフォームを持っていきな。そのかわりホームページ、中途半端な作り方しないでね」と言われたのでガッツリやらせていただいたんですけど、今となっては逆にアントラーズ側から「ちょっとやり過ぎだよね…」と呆れられました(笑)。でも持つべきものは全部製本して保存しているので、クラブハウスからすればもれなくアーカイブできる施設が一個増えたということで資料保存のためにも寄贈していただいているんです。

IMG_0666_meitu_1鹿島アントラーズコーナー

 

船見:今回は電子図書館サービスに特化したものでしたが、当館では本の展示やその他サービスでもいろいろと面白いことをやっていると思っています。ぜひ潮来市立図書館にお越しいただけたら幸いです。

 

 

(了)

船見 康之 (ふなみ やすゆき)

1979年茨城県結城市出身。日本大学卒業後、民間会社勤務を経て、2004年に茨城県結城市立ゆうき図書館にて勤務。その後、2006年から潮来市立図書館に勤務。現在は、指定管理導入(シダックス大新東ヒューマンサービス株式会社)図書館の館長として勤務。

潮来市立図書館

茨城県潮来市牛堀289
TEL:0299-80-3311
FAX:0299-64-5880
mail:lib@itako.ed.jp
https://lib.itako.ed.jp/


KIOSK端末(*1)
公共スペースなどに設置されるセルフサービス情報端末。

ビジネス支援図書館推進協議会(*2)
HP:http://www.business-library.jp/

レファレンスブック(*3)
資料や情報を調べるための図書。参考図書ともいう。

図書館海援隊サッカー部(*4)
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