月刊ほんインタビュー
電子図書館特集
潮来市立図書館館長 船見康之氏
第2回

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船見:潮来市立図書館の電子図書館サービスは9月1日からスタートしましたが、9月1日から30日まで図書館の窓口カウンターのとなりにデモンストレーションコーナーを設けました。そこにスクリーンとプロジェクターやノートパソコンなどを設置して説明しました。通りすがりの利用者はずっと見ることができます。

DSCN4441_meitu_3デモンストレーションコーナーの様子

―それはいいプロモーションですね。

船見:すると「あんなふうにやってるんだ」と全然関係のない利用者の方でも見ることができるし、映像を使いながらその場で大画面で説明しちゃうものですから分かりやすいです。興味があったらとなりのカウンターですぐ発行できますし。それでID・パスワードの配布が一気に広がっていったんですね。それを一ヶ月間続けて、利用者からは大好評だったんです。その場で操作説明を聞いたから説明している隙に利用者は自分のスマホですぐログインできて、それで帰っていくんですね。それを一ヶ月間続けたあと、10月から蔵書点検になりましたのでそれをきっかけに11月末まで一旦中止にしたんです。でも12月入って一部の利用者から「あのコーナーはやっぱり続けたほうがいいよ」との声があって、僕も目からウロコだったんですけど、やっぱりその場で図書館員が手取り足取りを教えられるというのは利用者にとってみても安心感が強かったようです。12月はまた復活させています。

―よくある話ですが、ITメタファー(*2)という言葉があって、ITメタファーがある・ないという言い方とかよくしますよね。一般的にインターネット、とくにスマホのアプリとか、マニュアルがない時代になってしまって、触って覚えろというが今のITの世界だと思いますが、世の中そんな人達ばかりではないですね。そこに御館が目を付けられて、そんなに難しいことではないということを説明できるような環境を作られたということは情報格差(*3)を無くすための図書館の役割のひとつでもあるかもしれないですね。

船見:そうなんです。情報の格差!これ重要ですよね。

―おじいちゃんやおばあちゃんなどらくらくホン(*4)を買っても、電話以外の使い道がよく分からなかったりする方々にとって、今おっしゃったようなプロモーションを含むサービスはとても重要なことだと思います。

船見:ですから、利用者感情もあってこのコーナーを復活させたわけなんですが、復活させたから利用者のニーズに応えた、というだけでは僕の気持ちが収まらないので、これからコンテンツをどんどん増やしていくんですが、この増やしていったときの新刊のお知らせなどをそこで紹介したら面白いかなと思います。自分達の図書館で提供している電子図書館のマーケティングツールとしても使ってしまおうかというふうに今考えをまとめています。おそらく年内にはメディアドゥさんに新しく新規のコンテンツを発注するんですが、年明け早々から広告ツールとしても宣伝しておこうかなとも思っています。

―とても興味深い話をありがとうございます。この話をぜひとも図書館員の方々に知ってもらいたいですね。

 

✐電子図書館サービスの利用状況が公開されない理由―それは利用率が低いからに他ならない

―続いてお聞きしたいのは、導入されて数ヶ月経ったわけですが、利用者の方々からの反響はいかがですか?

船見:具体的な数字はおそらくメディアドゥさんのほうから統計的なものが出ていると思います。(下記グラフ参照)

graph潮来市電子図書館9月日別貸出冊数&日別ユニークユーザー数(提供:株式会社メディアドゥ)

 ―実は、電子図書館を導入しました、実際にその利用状況がどうなっているかという情報が公開されていることをほとんど見たことがないのですが、それについてお伺いしたいと思います。

船見:今年度(2015年)9月1日から始めていますから、来年(2016年)の図書館要覧には今年度分の電子図書館の利用統計を入れ込みますし、購入したコンテンツのジャンルなどの統計も入れて後々ホームページで公開する予定です。

―なぜ今までそういうものが出てこなかったのか、ということに実はIRIとしては非常に疑問を感じているんですが、それに関してはどう思われますか?

船見:もちろん、その答えを知っています。利用率が低いからだと思います。利用がほとんどないはずなんです。

 

✐電子図書館サービスは、一度始めたら止まってはいけないサービスだと思う

―電子図書館が普及しない理由がそこだと思います。普及させるための努力と現状がどうなっているかということと、将来的なビジョンがまったく示されていない。公共のお金を使って公共図書館が成り立っているので「政策評価」という言葉がよく使われますが、費用対効果が一体どうだったのかということを電子図書館に関してほとんど開示されていない。これはデジタルアーカイブに関しても同じです。これは大きな問題だとIRIとしては遡って考えてきています。

船見:おっしゃる通りだと思います。結果的に潮来市立図書館も決して満足のいく利用実績を今の段階では残せていないです。でも、例えば登録者数だったりとかは、おそらく龍ケ崎よりは多いはずなんです(笑)。なぜかというと、多くの図書館で一度このサービスを始めたら始める前にみんなすごいバイタリティあふれた熱い思いで始めるのですが、始めたとたんズドンッと気分が下がっていくんですよ。始めたところがゴールになっているんです。例えば「ビジネス支援サービス」だって周りの図書館がやっているからうちでもやってみよう、本棚を作ってみようと。本棚を作って提供し始めて、はいビジネス支援始めました、終わり、という感覚がたぶん多いと思います。でも電子図書館って一度始めたら止まってはいけないサービスだと思うんです。ですから常に日頃から広報する努力を怠ってはいけないですし、でもそれをやらずに電子図書館サービスを始めました、と一度広報したらあとはそのままずっとほったらかしというパターンが多いから利用者も伸びないだろうと思います。でもそれに気づいて、改善するかしないかは今後の統計に大きく現れてくるでしょう。だから今僕は潮来市立図書館が現時点でほかの図書館と同じようにやっぱり利用が少ないじゃないか、というふうにバッシングされたとしても、1年後、2年後のスパンで考えていないから、10年、20年のスパンで考えているから、と答えます。潮来市立図書館に置いてある紙の本と同じように僕は電子図書館の本を考えていきますから。

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―先日メディアドゥの溝口様にお話をうかがったときも、メディアドゥも電子図書館事業そのものを今日明日の事業だと思っていないと。これから先続くもので、そのためには地道なことをずっとやり続けなければいけないからメディアドゥとしては覚悟していると話されていたことがとても印象に残りました。館長とはすごくいいパートナーですね。

船見:僕らは現段階では主婦をターゲットにしたりとか、そういったところでトップページに出てくる本というのもそういった年齢層の方々の興味を引くような仕組みに変えてもらっているんですが、でも結果ってわからないじゃないですか。将来ひょっとしたらもっと違うジャンルの本がいっぱい出てきたり、違うターゲット層が出来てきたりするかもしれない。それでも今の図書館の紙の本の提供スタイルと何ら変わりはないと思いますね。そういった意味では、例えば笹沼さんは、電子図書館は龍ケ崎市立中央図書館の分館的な位置づけで考えているとおっしゃいましたが、それと同じような考えだと思います。

―ありがとうございます。このお話をうかがえただけでもお時間をとっていただいた甲斐があったと感じました。

船見:周りの図書館長さんやいろんな人に「なんで始めたの?」「これでなにがやりたいの?」とかよく言われるんですが、僕はいつもこう言っています。「新しい読書の楽しみ方を提供しています。ライフスタイルに応じて図書館を使ってもいいよね。そのひとつが「電子図書館」です」と。いつもそれに集約させています。

 

 

第三回へつづく)

船見 康之 (ふなみ やすゆき)

1979年茨城県結城市出身。日本大学卒業後、民間会社勤務を経て、2004年に茨城県結城市立ゆうき図書館にて勤務。その後、2006年から潮来市立図書館に勤務。現在は、指定管理導入(シダックス大新東ヒューマンサービス株式会社)図書館の館長として勤務。

潮来市立図書館

茨城県潮来市牛堀289
TEL:0299-80-3311
FAX:0299-64-5880
mail:lib@itako.ed.jp
https://lib.itako.ed.jp/


日経テレコン(*1)
日本経済新聞が提供する雑誌・新聞の記事を中心とするビジネスデータベースサービス。
HP:http://telecom.nikkei.co.jp/

ITメタファー(*2)
隠喩を用いて、ユーザーに直感的に情報を伝える手段。

情報格差(*3)
デジタル情報に対して、収集・活用の能力の差。

らくらくホン(*4)
携帯電話初心者や高齢者向けに開発した携帯電話。