月刊ほんインタビュー
電子図書館特集
潮来市立図書館館長 船見康之氏
第1回

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✐本来図書館は誰もが気兼ねなく来ることのできる公共の場であるべき―電子図書館サービスの導入によってこの理想を現実にできると考えた

―図書館でよく子育て支援という言葉を聞きますが、子育てしている若いお母さんやお父さんをどう支援するのかといったときに、図書館に行きやすく利用しやすいようにするというのが子育て支援の本質だったかなと思いますが…

船見:そうですね。

―でも実は、図書館に行きづらい方々がたくさんいますよね。

船見:たくさんいますよ。でも、図書館で「静かにしましょう」とか堂々と張り紙を貼っちゃうわけですから…よくよく考えたらあの注意書きというかお願い文章っておかしいですよね。

―お子さん泣かせられないですよね…。

船見:子どもを連れて来ていいものかどうか、と躊躇してしまいますよね。本来だったら、図書館は交流の場ですよ、というふうに理想を掲げるならそういう人達が周りを気にせず利用できるような環境を整えてあげるのも図書館の大きな仕事のひとつだと思ったのです。であるならば、「電子図書館」というツールを通じて、図書館に来なくても24時間いつでもどこでも親子で一緒に絵本が楽しめるような機会を提供できないかなと。そして絵本だけじゃなくて、子どもがもっと興味関心を持つような、例えば歴史や科学などを用意できないかなとも考えました。これらを図書館に来なくても自宅で楽しめる環境があればお母さんもお子さんももっと気楽に読書を楽しむことができるだろうというのも、電子図書館サービスを導入しようとした発想のきっかけでもありました。

 あとは、なかなか図書館に来ることができない方々ですね。 特にビジネスマンの方々から実際に利用者の声としていただいたのは、閉館時間の延長です。潮来市立図書館は夜7時まで開いているんですけど、夜9時まで開けてくれませんかとか、10時まで開けてくれませんかとか、といったような意見もないわけではないですね。ただ、遅くまで開館するということは、やはり運営経費がかかりますのでそれほど簡単な話でもないのです。 そのことを考えていくと、じゃあもうちょっとビジネスマンの方々が読んでも自己啓発に繋がるようなものが提供できないかなと。それがきっかけで開館時間に図書館に行ってみようとか、図書館や読書の良さを知ってもらえるような機会が提供できればいいのではないかと考えました。

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 もうひとつは、高齢者ですね。大活字本(*7)とかは潮来市立図書館は結構な冊数をいろいろと揃えています。そんな中で、学生時代に読んだ本を改めて読みたいというふうに思って図書館に一生懸命通って来てくれるのですが、図書館にあるのはちっちゃい文字の書籍ばかりで、お年寄りにとってはなかなか読むのが億劫なようなのです。また、図書館というのはどうしても昔の人にとってはちょっと敷居が高いようなんですね。実際おじいちゃんやおばあちゃんに聞いたのですが、文字が読めて勉強ができて頭のいい人が図書館に行くもんだと。「おいらは昔勉強できなくて馬鹿だったから仕事して銭っ子稼ぐしかできなかったんだよね。だから今でも図書館って敷居が高いんだよね」とおじいちゃんに言われたことがあったのです。だから今でも図書館におじいちゃんおばあちゃんが来ると「おいくらするの?」という感じで財布を広げてくる人もいます。いくら無償で借りることができますよと言ってもそういう方達もいるのです。ちょっと返却が遅れると菓子折りを持ってきて「遅くなってごめんね」なんて人もいます。ですからそういった方々がもっと自宅でもお子さんやお孫さんと一緒に読書を楽しめるような機会を提供できたらいいのになあと思ったのです。電子書籍ならではの機能が問題を解決できると思ったのです。例えばスマホとかだったら拡大すれば文字が大きくなるし簡単に操作もできるでしょう。それを例えばお孫さんとかお子さんと一緒に操作することによって家族のコミュニケーションも取れるだろうし、もっといろんな本を読んでみようとか、昔おじいちゃんの時代はこの本がすごいベストセラーだったんだよ、という会話の中から若者が「へえーそうなんだ。じゃあ読んでみようかな」と思うかもしれないですし、そういった場を提供できるような電子図書館ならではの良さがあるんじゃないかというふうに考えたんですね。


✐メディアドゥ社との運命的な出会いが、電子図書館サービスの導入に拍車をかけた

船見:そういったコンセプトを書き出していって、スタッフと連日ディスカッションをしながら「それは図書館のエゴイズムじゃないのか」とかいろんな意見も出ました。コンセプトがまとまったあとに、どんなシステムを使えばいいのか、自分達がシステム構築をするのかと。でも僕達は素人だからできない。じゃあTRC-DLだったらそれが可能か? 可能かもしれない。でもコンテンツを十分準備できるかどうか。自分達が望むようなプラットフォームの仕組みになっているかどうかということを考えたときに、当時の検討できるサービスはTRC-DLとJDLS(*8)の二つしかなかったのです。

 そんな中、ある意味運命的な出会いがありました。潮来市立図書館で視聴覚資料を購入していたムービーマネジメントカンパニーさんの営業マンから株式会社メディアドゥさんを紹介していただきました。この出会いの話をすると相当時間がかかってしまうのでカットしますけど(笑)。それで、平成26年の図書館総合展(*9)に行ったときメディアドゥさんがOverDrive社のシステムを紹介してくださって、もうその時点で僕の中で「あっこれだ」と思ったんです。なぜかというとOverDrive社の存在は知っていたんです。でもこれは遠いアメリカの話であって、確かにニューヨーク市立図書館とか向こうの図書館にアクセスして「こんな感じで見てるんだ…」とか「こういうプラットフォームがあったら使いやすいよね」とかスタッフと話してはいたんですよ。「でもこれ英語だしね…」「日本語化…ないよね」というふうに言っていて諦めていたんですが、総合展に行ったら、あったので…(笑)。「OverDrive日本上陸しちゃうのね!」と喜んで、そのときメディアドゥさんの方々と意気投合して、一気に加速的に話を進めました。

潮来_151104潮来市立電子図書館公式サイト

―私どもが電子図書館サービスに関する活動を始めたときも電子図書館のプラットフォーマーがまだ一社、二社出てきたころでした。もっといろいろなサービスが出てくるんだろうか、アメリカがどうなっているんだろうか、ヨーロッパがどうなっているんだろうかといろいろ調べたときにOverDrive社に行き当たりました。そんな状況の中である日突然、メディアドゥさんが、OverDrive社のシステムを日本に持ってくるというニュースが流れました。私達にとってこのニュースはビッグニュースでしたね。図書館界だけではなくて出版界にとってもそうだったように思います。

船見:アメリカのOverDrive社を調べて、OverDrive社のシステムは図書館界の世界標準で図書館が利用者サービスとして使うことをちゃんと想定したプラットフォームになっていることは知ってはいたんです。それの日本語化があればいいのにというふうに望んでいたときの出会いだったので、とてもタイミングが良かったですね。それが導入の経緯になります。

 

 

第二回へつづく)

船見 康之 (ふなみ やすゆき)

1979年茨城県結城市出身。日本大学卒業後、民間会社勤務を経て、2004年に茨城県結城市立ゆうき図書館にて勤務。その後、2006年から潮来市立図書館に勤務。現在は、指定管理導入(シダックス大新東ヒューマンサービス株式会社)図書館の館長として勤務。

潮来市立図書館

茨城県潮来市牛堀289
TEL:0299-80-3311 
FAX:0299-64-5880
mail:lib@itako.ed.jp
https://lib.itako.ed.jp/


ゆうき図書館(*1)
茨城県結城市にある公共図書館。
HP:http://lib-yuki.city.yuki.lg.jp/

TRC(*2)
株式会社図書館流通センター。
HP:http://www.trc.co.jp/index.html

TRC-DL(*3)
株式会社図書館流通センターが提供する電子図書館システムサービス。

デジタルアーカイブ(*4)
秋田県立図書館デジタルアーカイブ
HP:http://da.apl.pref.akita.jp/lib/

カレントアウェアネスサービス(*5)
国会図書館が運営する、図書館に関する情報ポータルサイト。
HP:http://current.ndl.go.jp/

ビジネス支援サービス(*6)
公共図書館として支援可能な地域の経済社会の活性化につながるあらゆる取組(文部科学省HPより引用)。

大活字本(*7)
高齢者や視覚障害者が読みやすいように、通常の本より文字を大きくして組み直した本。

JDLS(*8)
株式会社日本電子図書館サービス。
HP:http://www.jdls.co.jp/

図書館総合展(*9)
図書館関連で国内最大のイベント。
HP:http://www.libraryfair.jp/about