月刊ほんインタビュー
電子図書館特集
株式会社メディアドゥ 溝口敦氏
第2回

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『月刊ほん Vol.3』では、アメリカにおいて公共図書館に『電子図書館サービス』を提供する会社として圧倒的シェア誇るOverDrive社と2014年5月に戦略的業務提携を発表した株式会社メディアドゥの取締役事業統括本部長 溝口敦氏に日本の図書館への電子図書館サービス導入に関して、現状や今後についてお話をうかがった。(取材日:2015年11月24日 聞き手:月刊ほん 編集担当)(連載第二回)

第1回|第2回|第3回(近日中公開)


 

■第二回■

・『電子図書館サービス』が日本で広がるために必要なこと―それは、『電子図書館サービス』についての感度と図書館運営の自由度の高さだ。
・『電子図書館サービス』事業に参入した理由―それはメディアドゥの事業理念の実現のため。コンテンツを届ける役割の中の図書館は絶対的存在の一つだ。

✐『電子図書館サービス』が日本で広がるために必要なこと―それは、『電子図書館サービス』についての感度と図書館運営の自由度の高さだ。

―現時点での日本の『電子図書館サービス』導入館は、指定管理者(*1)が入っている館が多いですよね。そうなっている理由は何だと思われますか?

溝口:「図書館総合展」のときも申し上げましたし、我々だけでなく当事者である指定管理者の方々も口にしていたことなのですが、ものすごく簡潔に申し上げると、指定管理者の行う図書館運営の「自由度の高さ」に起因しているのだと思います。指定管理者は県や市から予算を預けられています。その予算の範囲内で図書館をより良くして欲しいという市や県からのオーダーを実現するために何を行うかについては、指定管理者に任されているということが、結果的に指定管理者が入っている館に『電子図書館サービス』の導入が多い結果となっているのではないでしょうか?

―指定管理者が他社との競合に打ち勝つための材料として『電子図書館サービス』の導入を提案するといったことなのでしょうか?

溝口:いえ、そうとは限らないと思います。指定管理者側の目的は、誤解を恐れずに言うなら、「『電子図書館サービス』の導入が目的ではない」のだと思います。彼らにとって重要なのは、純粋に「図書館を良くしたい」ということなのです。つまり、彼らは特段図書館に『電子図書館サービス』を導入したいというわけでなく、「『電子図書館サービス』を図書館に導入することによって、市民サービスのレベルが向上すること」を実現したいという想いだと。『電子図書館サービス』の導入が市民サービス向上に寄与すると思うからこそ、彼らが預かっている予算の中からその一部を『電子図書館サービス』に割り当てる、もしくは割り当てる事を検討していくということだと思います。

―県・市主導の図書館の場合についてはどうでしょうか?

溝口:ある程度裁量を持っている県や市の職員の方が、図書館長や図書館員で実際図書館運営に携わっていらっしゃる場合、『電子図書館サービス』の検討から導入までのスピードはあまり変わらないのではないでしょうか。しかし、一般的には予算執行に辿り着くまでの時間が長くかかる事も多いので、なかなか実現まで漕ぎ着けられないのが現実のように思います。ある一定の決まった予算の中で、やりたいこと(特に今までに行ったことのないこと_ここで言えば『電子図書館サービス』を図書館に導入すること)を実現するのに十分な予算がなければ、他の明確に必要な予算を削ってまでそれらを実現することは至難の業だとうかがっています。日本において『電子図書館サービス』が図書館になかなか導入されないのは、関わっている方々の「やる気の有無」では決してないと考えています。

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―「『電子図書館サービス』を図書館に」と言われ始めて、それなりの月日が流れたように思いますが、まだまだ日本では『電子図書館サービス』が身近な存在になっていないように思いますが。

溝口:日本において、図書館が『電子図書館サービス』を導入する際、
(1)『電子図書館サービス』についての感度
(2)図書館運営の自由度(裁量権)の高さ
がポイントになっているように思います。

(1)については、今後の図書館サービスにおける『電子図書館サービス』の重要度などの情報に敏感であることや興味と言えばいいでしょうか。この点においては、情報発信元として私どもがもっと努力すべきポイントがあると感じています。(2)は先にお話したとおりです。
ただ、(1)の感度が高いだけでもだめです。(1)の感度が高くて、(2)の自由度が高いところの掛け算で、その掛け算が大きいところから『電子図書館サービス』の導入がなされるのではないでしょうか? 例えば北海道など導入が早かった(*2)のは、コンテンツ面での地域出版社さんの理解と協同があったのは大きかったのではないでしょうか。もちろん、推進役の館長が素晴らしい方だったことが大前提ですが、物理的(距離的・季節的)に図書館に来ることができない人が他の地域に比べて多いですから、そんな状況を考慮すると市民サービスの拡張のためには、デジタルを使うことが有効だという結論に至ったのではないかと思いますね。

―その掛け算を増やすために、メディアドゥさんが仕掛けたいことなど何かあればお聞かせください。

溝口:いろいろありますが、まずは、実績を増やしていくということだとは思っています。ただし、超えなければいけないハードルがそれぞれの図書館によってまちまちに思います。例えば予算を取りに行く、となった場合に、『電子図書館サービス』そのものを説明しないといけないところもあれば、「『電子図書館サービス』はわかった、でも費用はどのくらいかかるんだ」ということを問われるところも。また、『電子図書館サービス』の意味自体を問われるところなどいろいろな場合があると思います。導入を進める際には、当然その決議をする人(市議会議員だったり議会だったり)の誰かがハンコを押さなくてはいけないです。民間企業の場合とまったく同じです。起案する人としては、その誰かを納得させることが重要になってきます。その納得させる方向性はいくつもあるのですが、こちら側が「こうやればいい」という明確な解は、あまりないんです。例えば価格が問題だったら、「価格に柔軟性を持たせましょう」ということになりますし、有用性を説いてくれと言われれば、有用性をある程度分かりやすくするためにアメリカの例を持ってきて説明するとか、「日本でこういうふうにやられてますよ」と他の例をお話するとか。導入の際の手間や「ここが解決されないとだめだ」というところ等が具体的に存在するようでしたら、その手間や上手くいかないところを我々が直接解決するとかですね。画一的なハードルとその解決事例がほとんどないというのが現状です。我々にしてみれば、実績を増やすためにも導入を進めたい図書館の方々に問題の核心がどこにあるのかを言ってもらう必要があるんです。

―だからいつも「メディアドゥ社のブースでご相談ください!ウェルカム!」とおっしゃっているんですね。その言葉の意味は「まず図書館側の話を聞くこと、それを聞いて、御社にて解決策を提示し導入に結びつけたい」ということなんですね。

溝口:当たり前ですが始めないと、始まりませんから。電子図書館に限らず、サービスというものは、始められない理由はいくらでもあるじゃないですか。例えば担当者の人が始めたいと思っていて、でも、課題があるということであればお手伝いのしようがあるんですよ。ですが『電子図書館サービス』にそもそも興味がない人を動かすのはこの段階では難しい。

―まずは導入の意思が高いところから、ひとつずつ丁寧に…

溝口:そうですね。やりたいという方々を様々な角度からどれだけフォローできるかということが重要なことだと思っています。