月刊ほんインタビュー
電子図書館特集
潮来市立図書館館長 船見康之氏
第1回

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 今回は、9月にメディアドゥ電子図書館システムを導入した潮来市立図書館で館長を務める船見康之さんをお招きして、電子図書館を導入するに至った経緯や将来のビジョンなどについてお話をうかがった。(取材日:2015年12月17日 聞き手:月刊ほん 編集担当)(第一回)

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■第一回■

・潮来市民が待ち望んだ図書館―それが潮来市立図書館だ
・電子図書館をオープンするにあたって明確にしたかったこと―それは「誰に、どんなものを届けたいか」というコンセプトだった
本来図書館は誰もが気兼ねなく来ることのできる公共の場であるべき―電子図書館サービスの導入によってこの理想を現実にできると考えた
・メディアドゥ社との運命的な出会いが、電子図書館サービスの導入に拍車をかけた

✐潮来市民が待ち望んだ図書館―それが潮来市立図書館だ

gaikan潮来市立図書館

―本日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。まずは、潮来市立図書館について、ご紹介いただけますか。

船見:当館は、平成18年5月に開館したのですが、当時、潮来市にはまだ公立の図書館がなかったのです。潮来市のみなさんは公民館にある図書室や隣町の市立図書館に通っていました。茨城県の中でもずいぶん遅くにできた県内番52目の図書館ということで、非常に遅咲きの図書館です。今年で9年、平成28年5月が満10歳ということになります。図書館開設にあたって土地を確保し建物を造ると、自治体には大きな負担がかかってしまうのですが、潮来市の場合は廃校になった建物をリフォームする形で図書館の運営をしています。そうすれば、コストもだいぶ削減できますし、その分たくさんの本を新規に購入できるであろうという考えから始まりました。結果的に、街づくりの補助金(新市町村づくり支援事業補助金)10億円が国から出て、そこにプラスαで自治体が約500万円の投資をしただけで設立できました。潮来市民にとってみれば待ちに待った市立図書館でした。ただ、最初から図書館を建てようと考えていたわけではなく、平成の大合併のときのいわゆるひとつの記念事業として「何をしようか」と潮来市が悩んでいたのです。広く住民にアンケートをとった結果「図書館を作って欲しい」というのが要望だったそうです。そういった経緯も踏まえて廃校になったところを再利用して、図書館を誕生させました。

 ところが自治体の職員達は市立図書館を建てたのはいいがどうやって運営したらいいのかと頭を抱えてしまう現実がありました。当時、自治体の職員の中には司書の資格を持っている人がいるにはいたのですが、その方には実務経験がありませんでした。無理はありませんよね、潮来市には図書館そのものがなかったのですから。それで窓口サービスは民間会社に委託していきましょうというところからスタートしました。平成18年5月27日にオープンしたのですが、そのとき窓口委託に入っていたのが大新東ヒューマンサービス株式会社というところです。当時は市の行政職も同じ建屋にいて、窓口は民間会社のスタッフでしばらくやっていたのですが、平成22年4月に繰上げ指定管理ということで同じ会社が指定管理者としてスタートしました。当時は5年間の契約ですので本来でしたら平成26年度末で第一回目の指定管理の契約が満了になるのですが、契約更新ということになり、現在に至っています。

―船見さんと図書館の関係を少しお話しいただけますか。

船見:僕自身は大学を卒業したあと民間会社に就職して、そのあとは茨城県の結城市にあるゆうき図書館(*1)にパートタイムで入ったのが図書館人生の第一歩になりますね。そこで現在龍ケ崎市立中央図書館の笹沼崇館長に随分お世話になりました。

―コンビでやられていたのですか?

船見:コンビというものではありませんが…、笹沼館長ともうひとり当時は副館長だった桐生学さんという方がいらっしゃるのですが、笹沼さんが係長で、僕がパートタイムでした。当時僕自身はまだ司書の資格も持っていなくて、図書館の「と」の字も知らない状態で入ったので多くのことをお二人から教わりました。 今となっては笑い話ですが「本の選書しなさい」と言われて本の購入を頼むことになり、当時は購入代行がTRC(*2)さんでしたのでTRCさんに物を発注すればいいだけのことだったのですが、「Amazonでどうやって本を買ったらいいんですか?」とか「クレジットカードって作れるんですか?」みたいな今では絶対にありえないようなことを平気で職場で言っていました(笑)。

2インタビューに応える船見館長

 こうして笹沼さんからいろいろ教わっていく過程で、潮来市立図書館設立の計画があるという話が出てきて潮来市のご担当者が視察にいらっしゃいました。その対応を僕がしたことで潮来市の方と知り合いになりました。「潮来市が図書館を作るのであれば、結城市でくすぶっている場合じゃない。力試しに潮来市ヘいくぞ!」みたいな感じでゆうき図書館をやめて潮来へ移り、そして今があります。笹沼さんと桐生さんはその後ゆうき図書館を退職されフリーランスのライブラリアンをされていました。僕がお二人を僕と同じ民間の会社に引っ張り込んでしまった形になり、現在は龍ケ崎で館長と副館長をされています(笑)。立場や職場が違えど、いつか一緒に仕事してみたいなと思っています。あのお二人から、今の僕はどう映っているのか分かりませんが、とりあえず、選書はちゃんとできますよとお伝えしたいですね(笑)。

✐電子図書館をオープンするにあたって明確にしたかったこと―それは「誰に、どんなものを届けたいか」というコンセプトだった

―平成27年9月から御館で電子図書館がオープンされたということですが、どのような経緯で電子図書館を導入しようというふうにお考えになられたのか、そのきっかけについて少しお話をうかがえればと思います。

船見:電子図書館のことを考え始めたのは平成25年度ころからです。当時はやはりTRC-DL(*3)が一番先行していて、民間の電子図書館システムと呼ばれるものはTRCさん一本しか考えられませんでした。また、民間の出版社が販売している商業コンテンツ、つまり普通の電子書籍を導入して図書館で貸し出そうとするための法整備や出版社サイドの見解などまだ充分に示されていなかった時期でもあり、どうやったら図書館で電子書籍を提供できるか、というふうに考えていた時期でした。

 そんな中、秋田県立図書館の山崎博樹副館長が「デジタルアーカイブ」(*4)と銘打って昔の古文書だったり絵図だったり地域の資料を画像データにして、データベースと紐づけして公開されていたんですね。「たったそれだけでも、電子図書館サービスってできちゃうんだよ」とおっしゃっていました。じゃあ、ということでまず郷土資料の電子化で試してみたのです。山崎さんをはじめとした秋田県立図書館さんの事例はかなり参考になりました。個人的にはもっと勉強したかったのですが、茨城県の図書館協会の理事も担当していた時期でもあったので、どうせなら茨城県レベルで勉強する機会を設けたほうがいいと考えて山崎さんに電話して研修講師として来ていただき、電子書籍に関する研修をしていただきました。半分は僕自身のためだけに研修会を企画したようなものです(笑)。そこでいろいろな事例を山崎さんから教えていただいてその後いろいろ調査していました。ある図書館では本を上から撮影してそれを画像データにしてホームページに載せているだけのものとかもあり、「手法としては簡単にできちゃうんだ」というふうに思っていました。

 しかし一方で、むやみやたらにデジタル化してアップしてもいいのかとなるとやはり著作権などが絡んできますよね。そこで壁にぶち当たりましたね。「電子図書館」という概念の中でデジタルアーカイブもそうですが、やろうと思えば簡単に提供できてしまうという一方で、僕は「この電子図書館サービスを通していったい潮来の市民になにを提供していきたいの?」ということが自分の中ではっきりしていない時期だったと思います。「カレント・アウェアネス」(*5)とかでどこそこの図書館がデジタルアーカイブを始めましたよ、とか電子図書館サービスを開始しました!的なニュースを見かける機会が増えて、ただ単純に僕自身が「羨ましい。僕もやってみたいなぁ」と思っていました。おそらく図書館での「ビジネス支援サービス」(*6)に似た感覚だったと思うのですが、周りがそういうサービスをやり始めたから潮来市もやらなければいけないじゃないかとか、新しいサービスを始めれば知名度が上がるんじゃないかとか、そっちばかりに意識が集中していたと思いますね。

 じゃあ本当に電子図書館は潮来市立図書館にとって必要なのかどうかということを改めて考え始めたのが平成26年ごろです。25年は本当に情報収集と自分の中での意見が迷走していて、カオス的な感じの一年でしたね。26年に入って本腰を入れて潮来市立図書館として電子図書館を開始するにあたって、誰に、どんなものを届けたいのか、というコンセプトをまず明確にしようと考えたんです。そこでうちの図書館の利用者層ですとか、利用状況を分析していたところ、たとえばターゲットはまず主婦だというふうに考えが至ったんです。

 なぜ主婦なのかというと、たとえば午前中に小さなお子さんをお母さんが連れて図書館に来るのですが、お子さんが泣きじゃくってしまって、それがきっかけで周りの利用者に迷惑がかかっているんじゃないかということで来るのが億劫になってしまうお母さんもいらっしゃったのです。子どもが泣かないように一生懸命あやしたり抱っこしたりしていると、思う存分絵本を選ぶことがまずできない、ということもありました。絵本を借りに来るということは、おそらく子どもにたくさん本を読ませたいという気持ちはあるんだけど、自分で買って子どもに絵本を与えるには絵本は単価が高いから躊躇する。そういった経済的な事情もあるでしょう。お母さん達は子どもがうるさくしていると周りの人に迷惑をかけてしまうと遠慮をされているのが分かります。図書館はいろんな人に来て利用してほしい、みんなの情報の場ですよ、人が交流する場ですよ、と標榜しておきながら、実際こういう方々を積極的には受け入れていなかったんですね。潮来市立図書館も決して例外ではなかったです。