設立に寄せて

foundation

電子書籍図書館推進協議会代表 山崎博樹  

今、日本の出版界では、電子書籍の導入が急速に進みつつあります。過去に行われた様々な電子出版の時とは関心のレベルが違っており、出版、取り次ぎ、電子書籍製造、通信インフラ、機器メーカーを巻き込んだものとなっています。メディアの関心も非常に高く、電子書籍についての報道や特集が行われることも多いようです。これには、通信インフラの高度化、iPadに代表されるタブレット端末の登場とスマートフォンの社会的な普及が大きな背景にあると思われます。

さて、図書館が扱うコンテンツは、アナログ本から始まり、現在は視聴覚資料の提供が普通な光景になりました。電子的なサービスを提供は、大規模な図書館を中心として実施されており、実証実験的な事業が国内の多くの図書館で行われるようになりました。大学図書館での機関レボジトリの構築や電子ジャーナルの提供、公立図書館での書誌や索引等のデータベースはその先駆と言えるもので、現在は地域資料のデジタル化、音声や画像配信も実施されています。日本ではこれらをデジタルライブラリー又は電子図書館サービス等と呼んできました。

一方、電子書籍の提供は、日本国内では10数館と非常に少ない状況です。アメリカや隣国の韓国等は環境的な違いはあれ、普及率50%前後と言われていますので、比較するとかなり遅れている状況と言えます。電子書籍は、比較的従来のアナログの図書資料形態に近いため、図書館として取り入れやすいはずです。また、時間や空間に左右されない利用、絶版や古い刊行物の再版等、地域での少量出版物の発刊等、様々なメリットがあります。

しかし、現実には様々な課題があることにより普及が進まない背景にあると考えられます。それは、電子書籍導入についての図書館職員の技術的な理解の不足、出版者から提供される電子書籍の冊数が不十分であること等が主な要因と思われます。

現在、日本の図書館は、資料を収集して、貸し出しを行うという機能に加えて、図書館サービスを通じて利用者の課題や学習を支援するという役割が求められるようになっています。こうした新しい図書館サービスを進展させるためには、地域資料のデジタル化、電子書籍に代表されるデジタルコンテンツの収集・利活用を積極的に進めていくことが必須になると考えられます。
その際に議論が必要な観点を次に掲げてみたいと思います。

■図書館や関係機関が所蔵する所蔵資料を電子書籍化
■新しい図書館サービスに基づいた電子書籍の作成・提供
■DRM等電子書籍システムの適正化
■地域出版との協同
■絶版や出版しにくい資料の電子書籍化
■出版者の新しい図書館サービスへの理解の進展

日本の図書館が、今後、電子書籍の提供を行うためには、著作権を適切にコントロールし、技術的に確実なシステムを構築し、地域や出版者と協力しながら、さらに自らのサービス目的に適合した電子書籍を収集・提供する必要があります。

冒頭で紹介したとおり、図書館の電子書籍サービスには何点かの課題があるため、導入を控えている図書館が数多くあります。今後、これらの課題を調整するためのナビゲート機関や様々な取り組みが重要となってきます。

当推進協議会では、課題となっている技術的な知識の普及、電子書籍コンテンツの拡大を図るために、出版者と図書館員が一同に会し、話し会う場が必要ではないかという発案の基に、全国の図書館員、出版者やシステムメーカーの有志により、立ち上げた会です。今後、図書館がどのような電子書籍を必要とするのか、図書館の役割はどのようなものなのか、現在、図書館に導入されている電子書籍システムはどのような機能を持っているのか、その課題は何か、これらを情報交換しながら日本の図書館で電子書籍の提供を拡大していきたいと考えています。電子書籍という新しいメディアを使いながら、図書館と出版関係者の双方の強みを生かし、日本の出版文化の向上に繋がることを祈念したいと思います。